HLA(白血球の型)一覧表
別ページ「移植前HLAとPRA検査とは」でも述べましたが、このページでは免疫機能を司る HLA (ヒト白血球抗原)について、さらに詳しく述べてみようと思います。
以前から、白血球がヒトの免疫作用に関係しているということは解明されていましたが、1950年代半ばに、フランスの Dausset 博士が、そのことをより具体的に証明しました。
また、その後の研究により、HLAは白血球だけに存在するのではなく、実は体のほとんど全ての細胞(髪の毛・爪・皮膚・唾液)などにも存在することがわかってきました。
臓器移植を受けるにあたっては、レシピエント(患者)とドナー(提供者)が一卵性双生児の関係ではない限り、大なり小なり患者は【拒絶反応】に見舞われます。
つまり患者の免疫システムは、ドナーから移植された臓器を【異物】=【非自己】と判断し、その異物を体内から排除しようとします。これが正常な免疫システムが引き起こす拒絶反応です。
では、患者の免疫システムは、なぜ他人から提供された臓器を【異物】と判断して、その存在を【拒絶】するのでしょうか。
その原因となるヒト免疫システムは実に複雑であり、現代の医学的知識をもってしても、完全には解明されていませんので、この免疫反応に極めて関係の深い、HLA
の果たす役割についてお話を進めようと思います。
すでにお話ししましたが、ヒトを含む動物には、【自己】と【非自己】を区別する免疫システムが自然に備わっています。
その免疫システムが、ある他人の組織を【非自己】であると認識すると、白血球内にあるリンパ球 T 細胞が【異物】とみなした【非自己】に攻撃を加えて、外敵から【自己】を守ろうとします。
その仕組みを簡単に説明すると、HLA の配列の違いに注目して、自己・非自己を区別しています。
【A2, A11 B7, B18 Cw1, Cw3 DR1, DR4】
上記の記号と数字は、架空の人のHLA型。正確には HLA TISSUE TYPING と呼ばれるものです。(架空の例えとして書きましたが、これと全く同じ
HLA の型を持つ人が実際にいるでしょう)
例に挙げたこの方は、HLA- A座の A2 および A11 をご両親のどちらかから受け継いでいます。(例えば父親の HLA-A座は A2 と、もうひとつ別の
Ax を持ち, 母親は HLA-A 座の A11 と、もう一つ別の Ax を持っています)
同様に、ご両親のどちらかが B7 と B18 を持っていて、さらにまた Cw・DR についても同様です。
このように HLA は両親から A座・B座・C座・DR座を、それぞれ2つずつ受け継ぐため、上記の【A2, A11 B7, B18 Cw1, Cw3
DR1, DR4】のように、個人の HLA 型が決まるのです。この HLA 型は一生涯にわたって変わることはありません。ですから親子関係の特定や、犯罪捜査で用いられる
DNA 鑑定も、この HLA と密接に関わっています。
スクロールダウンして、以下に記載した HLA の一覧表をご覧ください。
赤血球(いわゆる血液型)は、A・B・AB・O の4種類しか存在しませんが、白血球 HLA は、このように現在判明しているだけでも、A座は23種類、B座にあっては39種類もの「型」があるため、その組み合わせは数万通りにも及びます。
なお、( ) がついている抗原、例えば A23 (9) の意味するところは、HLA の研究過程において当初は A9 として理解されていたものの、その後の研究の発展により、A9 が複数に再分類された結果、A23 と命名されたという意味です。免疫学のさらなる発展と共に、HLA 抗原はより細分化されるのではないでしょうか。
拒絶反応の話に戻ります。
拒絶反応=【非自己】をリンパ球 T 細胞が攻撃するのは、このように数万通りにも及ぶ HLA の型の違いを検知して行われます。
ですが、HLA の型は数万通りもの組み合わせがあるため、完全に一致する HLA を持つ他人を探し出して、臓器提供者になってもらうことは事実上、不可能に近いでしょう。
血族や姻族にドナーになってもらうにしても、一部の兄弟間を除き、完全に HLA が合うことは、まずあり得ません。しかし HLA が違うと拒絶反応が発現してしまいますね。これでは臓器移植など安心して受けられません。
そこで登場するのが、【自己】と【非自己】の違いを検出する免疫システムの能力をあえて一定程度低めて、リンパ球 T 細胞の感度を鈍らせる「免疫抑制剤」の出番となるのです。
詳しくは「免疫抑制剤について」で述べていますが、第2世代の免疫抑制剤下での移植手術の場合、最新の第3世代の薬剤よりも確実な免疫抑制効果が得られなかった関係で、患者とドナーの
HLA を高い次元でマッチさせることは必須でした。事実、1980年代に腎移植のお世話をさせていただいた患者様の中には、移植チームが首を縦に振るような
HLA の組み合わせの良いドナーに巡り合うまで、およそ3年の月日を要した方もいらっしゃいました。
しかし1990年以降に移植医療現場で使われ始めた、「タクロリムス」に代表される、第3世代の免疫抑制剤の優れた薬効と、免疫学の長足の進歩に伴い、現在では患者とドナーの
HLA タイプは、なるべく合っていることに越したことはないものの、あまり重要視されなくなっているのが現状です。
我が国でも20年ほど前から、夫婦間の腎移植が積極的に行われています。夫婦は赤の他人ですから、極めて稀な偶然の一致を見ない限り、両者の HLA
型は違っていて当然。しかし、それでも術後の経過は、兄弟や親子間の移植手術と比べて大きな差がないのが実情です。タクロリムスに限らず、セルセプト・シムレクトといった最新の免疫抑制剤が、臓器移植の発展に果たす役割ははかり知れませんし、免疫学のさらなる進歩からも目が離せません。
極めて多くの型が存在する HLA の詳細について、ご理解いただけたとしたら幸です。
HLA-A座 | HLA-B座 | HLA-C座 | HLA-DR座 |
---|---|---|---|
A1 | B7 | Cw1 | DR1 |
A2 | B703 | Cw2 | DR103 |
A203 | B8 | Cw3 | DR15(2) |
A210 | B13 | Cw4 | DR16(2) |
A3 | B14 | Cw5 | DR17(3) |
A11 | B65(14) | Cw6 | DR18(3) |
A23(9) | B62(15) | Cw7 | DR4 |
A24(9) | B75(15) | Cw8 | DR11(5) |
A2403 | B72(70) | DR12(5) | |
A25(10) | B18 | DR13(6) | |
A26(10) | B27 | DR14(6) | |
A29(19) | B35 | DR1403 | |
A30(19) | B37 | DR1404 | |
A31(19) | B38(16) | DR14(6) | |
A32(19) | B3901 | DR7 | |
A33(19) | B3902 | DR8 | |
A34(10) | B60(40) | DR9 | |
A36 | B40 | DR10 | |
A43 | B4005 | DR52 | |
A66(10) | B41 | DR53 | |
A68(28) | B42 | DR51 | |
A69(28) | B44(12) | ||
A74(19) | B45(12) | ||
B46 | |||
B47 | |||
B48 | |||
B49(21) | |||
B50(21) | |||
B51(5) | |||
B5102 | |||
B5103 | |||
B52(5) | |||
B53 | |||
B54(22) | |||
B55(22) | |||
B56(22) | |||
B57(17) | |||
B58(17) | |||
B7801 |