【こむら返り解消法】海外腎移植手術のこぼれ話
長年にわたり海外の多くの国で腎移植をお受けになる患者さんの通訳としてお世話をしてきた経験から、様々な状況に接することとなりました。
ここでは、これから腎移植手術をお受けになる事をお考えの方々にとって参考になると思われる、海外での治療の様子と、海外であれ国内であれ、腎移植手術の前後に起こる、透析患者さんの驚くべき変化など、そのいくつかをご紹介いたします。
8年間の腹膜透析を経て血液透析に移行した、60代の女性患者Mさん。
フィリピン・国立腎臓移植研究所での移植手術を受けるため、手術の約一週間前にマニラ入りした彼女とは、毎日のランチと夕食をご一緒していました。
この食事については、毎日のレストラン選びのほかに、私たちには、もうひとつの大きな仕事がありました。
それは、一番寒くない席を事前に確保すること。
フィリピンは一年を通じて暑い国ですが、ホテルや商業施設はガンガン空調が効いていて寒いほど。レストランも例外ではありません。しかし透析患者のMさんは極端な寒がり。
南国の太陽が照りつけるマニラ市内でも、毛糸の帽子をかぶり、ネックウォーマーに長袖という姿で歩く彼女を、道行く人が不思議そうに眺めていたことを思い出します。
それほど寒がりの彼女のため、私たちのスタッフが一足先にレストランに入り、エアコンの場所をチェックして、最も寒くないテーブルを確保してから、彼女を店内に案内する日々でした。
そんな彼女を新たな試練が襲ったのは、腎移植手術の直後から。
腹膜透析と血液透析を合わせて11年ほど経過してからの移植手術でしたので、術後に大量に造られる尿に膀胱が対応できず、尿路カテーテルを抜いたあとは、トイレに10分ごとに通うありさま。深夜でさえ尿意は遠慮してくれませんから、常に寝不足の状態が退院後の数日間も続いたことを記憶します。
退院が許されても、専用車で移動するホテルまでの30分ほどの道のりは、オムツでしのぐしかなかったのです。
入院中のお食事風景
退院前日。執刀医の最後の回診
このMさんの例は決して特別なものではありません。
透析生活が長くなると、腎臓で尿が作られなく結果、膀胱に尿が入ることがなくなります。
すると膀胱は弾力性を失い、わずかな尿が入っただけで満タン状態となって、術後の数週間というものは、それこそ10ー15分おきにトイレに駆け込まざるを得ない状況となります。
過去の数人の患者さんは、帰国のフライトでもオムツが必要でした。飛行機の出発準備が整ってドアが閉まり、シートベルトサインが点灯してから、実際に離陸してベルトサインが消えるまでは数十分かかりますから、透析生活が長かった患者さんには耐えがたい時間でした。
離陸時のみならず、飛行機が着陸のために降下を開始するタイミングでベルトサインが点灯してから、着陸後に機体がターミナルに到着するまでの小一時間も同様。
帰国の機内にて
このことからも分かるように、腎臓移植を検討されている患者さんは、透析生活に陥る前か、もし透析に移行していたとしても、膀胱が弾力性を失う前の、なるべく早タイミングで移植手術をお受けになることを強くお勧めします。
Mさんの極端な寒がりは、移植手術とともに消え去ったことは言うまでもありません。
退院してホテルに移動後は、一度も長袖に袖を通さずに過ごしていらっしゃいました。
♥ エピソード2
透析前に先行的腎移植を受けた60代の男性患者Hさん。
手術は2時間50分で終了し、術後4日目に退院となりました。
退院後のホテルに到着してチェックインを済ませ、それぞれの部屋に入ってから数時間後、夕食をどうするか相談するためにHさんの部屋に何度も電話をするも応答なし。
心配になってスタッフが部屋まで行ってドアをノックしても、やはり無応答。ますます心配になってホテルの従業員に事情を説明してマスターキーでドアを開けてもらった結果、部屋にHさんの姿はありませんでした。
部屋の窓から外を見ると、何と彼はホテル中庭にあるプールサイドを散歩しているではないですか。腎移植手術を済ませた、わずか4日後の退院当日に!
その様子はこちらのビデオでどうぞ
帰国前日にお世話になった医師とホテルで記念撮影
お元気なのは結構なことだけど、傷口に悪影響があるかも知れないから、動き回るのはまだ待ってほしいと言わざるを得なかったほど快調な術後状態を示しておられましたし、透析前に移植手術を受けたため、前述のMさんのような膀胱に関する問題もありませんでした。
そしてホテルで3泊を過ごし、帰国途中のトランジット(乗り換え)での出来事。
接続便の関係で10時間ほどの乗り継ぎ時間を、空港内のカプセルホテルで過ごしたのですが、そのカプセルは上下の2段構造となっていました。
私たちはHさんを含めて3人。下段のカプセルに私1人が、上段のカプセルにHさんとスタッフの2人がアサインされたので、梯子状の階段を使って上階に上がることのないよう、Hさんには私のカプセルと交換して下段のカプセルを使ってもらおうとしたものの、それを言う前に彼はさっさと上に登って自分に割り振られたカプセルに突入!
健常人でも梯子を垂直に上ることは簡単ではありませんが、術後8日目のHさんは、いとも簡単にこなしたことに驚きました。透析により全身状態が悪化する前に受けた先行的腎移植がもたらす予後状態の素晴らしさを、まざまざと見せつけられたHさんの姿でした。
極めて順調な予後状態であったものの、逆に順調すぎて大いにハラハラしたことを思い返しますが、数か月前に久々に電話で近況を伺ったところ、ピンピンしていると、張りのある大変にお元気な声をお聞きすることができました。
健康回復のお役に立てて嬉しい限りです(^^♪
♥ エピソード3
血液透析6年を経て、お孫さんより若い子供を持った50代後半の男性患者Kさん。
Kさんは数年間、透析クリニックに通い、その後はご自宅を改造してバクスター社の「ゆめ」を使用して就寝時におこなう「オーバーナイト透析」を受けておられました。
毎晩9時ごろから翌朝の6時ごろまで、自宅で機械に繋がれての透析を継続していましたが、月に一度の健康チェックのために通院していた地元の医療機関の看護師さんから当会の存在を知らされたことをきっかけとして、ご連絡をいただいたことにより、ご縁が生まれました。
術後5日目に尿路カテーテルが外され、数年ぶりにトイレで排尿した瞬間、大きな声で男泣きしていた姿は、いまだに脳裏に焼き付いています。おしっこが出る喜びで涙する患者さんは何人も見てきましたが、誰はばかることなく、隣の病室にも聞こえようかという大声で歓喜の涙を流されたのは、Kさんが初めてでした。
移植手術の様子(1)
移植手術の様子(2)
最後の透析が終わった瞬間
透析からの解放に大喜び
移植手術の経緯については特筆すべきことは何もなく、ほかの患者さん同様に順調な回復を示して帰国。
その2年後には外国籍の若い奥様と再婚され、なんと還暦を目前にして、前の奥様との間に生まれたお嬢さんの子ども(孫)より若い男の子を授かりました。
別ページでも述べましたが、男性が腎移植を受けて健康な臓器をいただくと、男性機能が明らかに復活します。
腎臓って毒素を排出して尿を作るだけではなく、生殖機能にも密接に関係しているですね!
♥ エピソード4
血液透析5年を経て健康を取り戻した、氷が手放せない50代の女性患者Gさん。
ある月刊誌に掲載された当会の活動を綴った記事を、ご主人が読んでコンタクトをいただきました。
Gさんは、いわゆる「透析困難患者」で、週に3回の人工透析中、ほぼ毎回のように足がつったり(こむら返り)、胃から戻したりを繰り返していたとのこと。
厳しい水分制限が課される透析期間中、Gさんは冷蔵庫で氷を作り、それをゆっくり舐めることにより、少しでも長い時間にわたって水分を味わうことが何よりも楽しみな日常を過ごしてました。
同じ体積でも、水だとあっという間に喉を通り越してしまうゆえの氷。
加えて透析のない日はサウナに通い、少しでも汗を出して体重を減らして、その減った体重の分、氷とのわずかな時間を楽しんでいました。
ところが、そんなGさんの状況を知らないお孫さんがある日、冷凍庫内の氷を全部食べてしまったことがあり、普段は優しいお婆ちゃんが烈火のごとく孫を怒ったとのこと。
それからというものは、冷凍庫のドアに「こおりは、おばあちゃんだけ」と注意書きを貼り付けることにより、同じ災難は避けられることに。
移植手術は順調に終わり、帰国後にご招待を受けた食事会の席上、予期しない報告をいただきました。
それは、透析患者特有の口臭がなくなって嬉しいというもの。
そうです。透析患者さんは一般に、アンモニアのような強い口臭を発します。お世話をしていて自然に気付いたのですが、ほぼすべての患者さんから口臭を感じました。
原因は様々ですが現代の医学では、次のように理解されているようです。
・透析では尿素窒素やアンモニアが体の外に十分には排出されないから口臭が起こる。
・透析により唾液が減少して、口内に細菌が繁殖するため口臭が発生する。
・その細菌により虫歯や歯周病が起こり、口臭の原因となる。
この強い口臭が消えうせたことは、Gさんご本人だけでなく、ご家族の皆様も大きな嬉しい変化となりました。
こむら返りや吐き気を伴う、一日おきの辛い透析から解放されただけでなく、長年にわたり悩まされていた口臭も消え去るなど、移植医療がもたらす素晴らしさを肌で実感しておられました。
お世話になった移植医との記念撮影
♥ エピソード5
血液透析3年。就寝時、ふくらはぎにアルミフォイルを巻く70代男性患者Wさん。
腎移植手術を目前に控えたある日の夜、ホテルのWさんの部屋で世間話をしていたときのこと。
もうすぐベッドに入るというWさんは、スーツケースからアルミフォイルを取り出し、やおら両足のふくらはぎを巻き始めました。
聞くと「こうしてアルミフォイルを巻いた上からハイソックスを履いて寝ることにより、こむら返りの心配なく眠れる」とのこと。
この民間療法を始める前は、かなりの頻度で就寝中にこむら返りに襲われて辛い思いをしていたものの、このようにして寝ると、それがほぼなくなったと語ってくれました。
透析により体内の水分と塩分が極端に失われるため、特に透析を受けた当日の夜は、患者さんによってはこむら返りを経験することは知っていましたが、アルミフォイルとは良く考えたものです。
ちなみに経験上、ハイソックスだけでは効果がなく、ふくらはぎの皮膚と空気を完全に遮断するアルミフォイルを巻き、その上からハイソックスを履くことが最も効果が高いとおっしゃっていました。
このことを、やはりこむら返りに悩む別の透析患者さん数人に伝えたところ、効果抜群との声をいただきましたから、就寝中のこむら返りにお悩みの透析患者さんは、ぜひ一度お試しください。
その後Wさんは移植手術を受け、順調な予後を示して帰国されましたが、術後は十分な水分が摂取できるようになったので、以後はこの民間療法に頼らずとも安心してお休みになっておられるとお聞きし、健康回復のお役に立てたことに、あらためて喜びが沸き上がったものです。
現地の移植チーム
♥エピソード6
透析前に先行的腎移植を受けられた外国人患者Lさん
現役時代に日本の商社と取引があった関係で日本語を理解することができたため、本国から当会のホームページをご覧になり、詳細な説明をお聞きになるために、まずは3泊4日の日程で来日されました。とても流暢な日本語を話されることに驚くとともに、初めて電話で話をした3日後に来日するという、フットワークの軽さと行動力にも驚かされたものです。
当会の事務所にて海外腎移植についてご説明したところ、「ぜひ透析前に移植を受けたい」との希望を示されたため、私どもの活動にご協力をいただいている都内のクリニックにて、現地移植医療施設から要求されている、HLA TISSUE TYPING, PRA SCREENING を含む渡航前検査を滞在中に済ませて、いったん本国に帰国。その後、現地医療機関から「受け入れOK」の評価を得たあとで再び来日され、成田空港経由にて現地に飛んで腎移植手術を受けられました。
結果は、クレアチニン0.8という好成績で奥様とともに帰国されました。
現地に滞在中は、米国で暮らしておられるお嬢様夫婦がお見舞いに来られ、お父様の手術の成功を喜んでいらっしゃいました。
入院中の様子
執刀医に深々と感謝
成田空港から乗り継いで本国に帰国
以上、過去にお世話させていただいた患者さんに関して、特に印象深かったエピソードをお伝えしました。
腎臓移植をご検討中の方々の参考となれば幸です。
当会は渡航臓器移植について、勧誘やあっせんを行うものではありませんが、これから海外で医療行為をお受けになることを検討中の患者さまは、ぜひ私どもの通訳と、渡航先での各種ケアサービスをお役立てください。