「医療はビジネス=利益追求」 海外の医療文化の本質
日本と海外の医療体制の違い
このページでは、海外での腎臓移植(渡航腎移植)や他の治療を希望する日本人患者が理解すべき、海外と我が国の医療機関のシステムや医療文化の違い、また、医師の立場の違いについても述べてみたいと思います。 ◆このページの情報でご理解いただけること◆(読了時間:約10分) ・公立病院か私立病院か ・患者は医療機関を選べるのか ・我が国と諸外国では「医療文化」が違う ・本音の医療文化「医療はビジネス=利益追求」 ・なぜ外国人の移植手術をいまでも引き受けるのか? ・入院期間や病院食の違い ・海外での透析は日本とは大違い ・諸外国での「医療費」の考え方 |
まずは、公立病院と私立病院の違いについて





医療へのアクセスという点を考えると、我が国は他のどの国よりも簡単に医療機関を受診することが出来ると言えます。
患者は、公立病院にかかるも、私立病院にかかるも、自身で自由に選択できますし、支払う医療費は、公立・私立ともほぼ同一で、提供される医療の質や水準も基本的には差がありません。
他方で諸外国はというと、G7諸国を除くほぼ全ての国の公立病院は、医師や看護師、また、薬剤が慢性的に不足しているうえ、検査機器等が十分ではないため、公立病院はいわば「低所得者専用病院」となっているのが実情で、公立病院で働く医師の多くは、レジデント・ドクター(研修医)。果たしてどこまで信頼できるか不安になっても不思議ではありません。
このような公立病院の事情から、多くの患者は費用が掛かっても、私立病院を受診しています。
しかし、私立病院の医療費は、日本に比べてはるかに高額である国が多いことを忘れてはなりません。
「国公立病院=経験豊富な医師がいて、最先端の医療を提供してくれる」という医療文化は、我が国だけのものだとも言えるでしょう。
我が国と諸外国|医療文化の違い
まず医師ですが、諸外国の私立病院ではインドや韓国など数か国を除き、医師は「自営業者」という立場の下、病院内で「営業」をしているのです。これはどういうことかというと、医師は病院からサラリーを得る「勤務医」ではなく、病院と契約をして院内にクリニックを持ち、顧客である患者が訪れるのを待っている「個人事業主」であるということです。
一例として腎臓移植を専門とする外科医。
彼らは病院に部屋代を支払って院内にクリニックを開設しています。
移植希望の患者が訪れると、ドナーの有無や既往症などを問診したのち、移植手術に必要な事前検査を指示します。
患者は指示された検査を病院内の検査部門や外部の検査専門ラボで行い、その結果を医師に届けます。この費用は検査施設に患者から直接支払われます。
また医師は最初に、移植手術やポストケア(予後管理)についての医師の取り分(報酬)= プロフェッショナル・フィーを、患者と話し合って決めるのです。
経済的に豊かな患者には応分の支払いを求め、そうではない患者とは払えるだけの金額で契約をする医師もいれば「他の医師をあたってくれ」と引き受けない医師もいます。
(余談になりますが、この医師の取り分=プロフェッショナル・フィーについて患者と相談するのは、主として医師の秘書であり、医師本人ではないことが多いです。医師の収入の源である販売価格を有利に決定するため、患者と良い関係が構築できる秘書は医師の右腕としてとても優遇されています)
つまり我が国とは違い医療に「定価」がないのです。これはちょうど、自由診療である日本の美容整形の施術代と似ていますね。
患者は検査費用・入院費用等は医療機関(病院や専門検査機関)に支払い、これとは別に医師と契約したプロフェッショナル・フィーを医師個人に対して支払うのです。
このような欧米の医療システムを「オープンシステム」と呼びます。
病院は営利目的の事業会社が建設・運営し、契約した医師からはテナント料を受け取って、その医師を訪れる患者のニーズに合った検査装置や手術室、あるいは入院のための病室を提供して利益を上げます。
高級病院は様々な最新の検査機器を備え、また快適な入院環境を整えていますから、医師からは高額なテナント料を得られると同時に、患者が支払う検査費用や入院費用も高額なものになります。
このような事情で、高級病院にクリニックを開いている医師のプロフェッショナル・フィーも、やはり高額になる傾向があるようです。
わが国では、「同一疾患同一診療報酬」の原則で、大きな病院でも小さな病院でも、医療費に大きな差異はありません。また医師についても、経験豊富な医師に掛かろうが、まだ若く、あまり経験のない医師に掛かろうが、やはり支払う医療費は一緒。
しかしながら我が国でも、「〇〇教授先生に執刀してもらうには、〇〇万円を包まなければならない」などという、いわゆる袖の下がまかり通っていることも事実のようです。
平たく言うと欧米のオープンシステムは、この「袖の下」を患者に対して明らかにして、その医師の技量に応じた報酬を、あらかじめ患者と取り決めているとも解釈できます。
盲腸の手術を1万ドル払わないと引き受けない医師がいる一方、千ドルでも引き受ける医師がいるのも、諸外国の実情と言えるでしょう。
このように諸外国では、病院も医師も利益追求を第一として医療行為を提供しています。
なぜ外国人の移植手術をいまでも引き受けるのか?
さて、海外で臓器移植を考えている患者さんには、ここからが本題です。



諸外国の多くの医師は「法律で禁じられていなければ、なんでも引き受ける」という現実があります。
何故なのでしょうか?
営利目的で医療行為を行っている彼らは、医師となって働いて儲けるために高い授業料を支払って医学部に進み、努力に努力を重ねた末に難関である医師国家試験にパスして、まずは公立病院を振り出しとして、収入には恵まれないレジデント(インターン)生活を何年も経た上で、ようやく独り立ちしたわけですから、売上を上げることにこそ大きな心血を注いでいます。
また病院サイドも臓器移植患者を受け入れることは、他の疾患の患者を受け入れるよりも大きな利益が見込めるため「法律違反でない限り」喜んで受け入れるのが実情。
また別の側面として、我が国と同様に医師が病院からサラリーを得ているインドなどの国々でも、病院の営業部隊は患者の獲得に日々心を砕いており、一般の事業会社のような積極的な営業活動を展開しています。
すなわち「心臓バイパス手術なら当院が最も経験豊富。パッケージ価格22,000ドル。米国の1/4」「糖尿病の根本治療なら当病院へ!外科手術のパッケージ一式18,000ドル。米国の1/3」などなど。このような宣伝コピーをビルの壁にある広告スペースに掲げたり、一般住居の郵便受けにチラシを入れる、携帯電話にショートメッセージでを無作為に宣伝を送る、さらには市内を走るバスの車体に「他院より〇〇ドル安い・最高の医療技術・最新の医療機器あり」などと、派手な広告を露骨に書いて宣伝するなどの営業活動をしています。
諸外国の医療機関と医師はこのようにして患者を集客し、法律に反さない限りどんな要求にも応じて利益追求を目指しているのが実情。また、大きな医療機関になると、おそらく10人は下らないであろうマーケティング手法を専門に扱う顧問弁護士を揃え、どうしたら法を侵さずに利益を上げられるかも、日夜研究していることは言うまでもありません。
医療機関も医師も、また社会的にも「医療行為はビジネス=利益追求」と割り切って位置づけていますから、この点こそが、わが国の医療システムと他国のそれとの大きな違いであるということを理解することが極めて重要なのです。
ビジネスとして医療を提供している以上、私立病院は医療費を支払えない患者の診察は当然のこととして拒否しますし、患者側も「お金がないから病院にはかかれない」と、納得せざるを得ない医療文化が存在しています。
このような人々の受け皿となっているのが、快適さとは無縁の前述した公立の医療機関なのです。
2008年にWHO(世界保健機関)加盟各国により「渡航移植の原則自粛」が批准され、インド・フィリピン・タイ・インドネシアなどの移植先進国では、罰則を伴う臓器移植法が施行されましたが、その施行前は多くの国々で「移植ツーリズム」と銘打って外国人臓器移植希望患者を募り、医療機関が自国のドナーを用意した上で、非血縁者間による生体腎移植が盛んに行われていた事実が「法で禁じられていなければ、どんな医療行為も許される」と、ビジネスライクに割り切って移植医療が行われていた証ですし、2008年のWHOの勧告後の現在でも複数の国の医療機関で、その国の臓器移植法を踏まえた上で、外国人の移植希望患者を一定の条件の下で積極的に受け入れているという現実があります。とはいえ病院は手術を行うにあたって、弁護士や専門家などから構成される臓器移植倫理委員会の承認を得ることが不可欠ですが、国が変われば医療文化が違うこと同様「倫理観」もまた、国により異なるのです。
2008年のイスタンブール宣言採択後は、移植手術の許可を得るための手続きが複雑化して、以前よりも簡単ではなくなったとはいえ、知恵を最大限に絞った上で、現在でも外国人患者の渡航移植を継続して受け入れている国や医療機関が存在し続けている理由が、これでお解りいただけたかと思います。
●私どもでは海外で行われる渡航腎移植など臓器移植手術の「勧誘」や「あっせん」「仲介」行為は行っておりませんが、これから海外にて腎移植をお受けになることをお考えの方々には、過去40年近い極めて豊富な経験に基づいた的確なアドバイスを差し上げられると確信しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。
詳しくは海外腎移植実現までの流れをご覧ください。
日本と外国の医療機関|患者のケアに対する考え方の違い
(1) わが国で腎臓病の患者さんが医療機関に入院すると、生野菜やバナナ等の高カリウム食が病院食として提供されることは、まずないでしょう。給食担当部門は、個々の患者さんの疾患の状態を医師と共有し、適切な内容の食事を提供してくれます。
しかし諸外国では、ここまで親切に対応してくれることは期待できません。
日本人にとっては驚くべきことに、腎臓病の患者にバナナやパイナップルなどが、日常的に提供されます。
「患者の疾患に合わせて何種類ものメニューを用意することは出来ないから、食べて良いか否かは患者が判断してください」という姿勢ですから、この点には特に注意が必要です。
また同じ病院食の話として、食事抜きで(胃を空にして)検査を受ける必要がある場合、日本ではそもそも食事の提供はありません。しかし諸外国の病院はというと、検査室から給食担当部門に「このあと検査がある」旨が連絡されないことも多く、いつもどおりに食事が提供されることがありますから、この点も注意が必要でしょう。
さらに病院食に関して言えば、我が国の病院では昼食であれ夕食であれ、間違いなく入院当日から提供されますが、諸外国の病院は時として食事が出ないことがあります。
理由は、入院受付の事務方と給食を提供する担当部署との間で、情報の共有が有機的になされていないことが考えられます。また食事の提供時間も、日本の病院ように朝食・昼食・夕食がきっちり時間どおりではありません。30分や1時間のズレなど珍しくありません。
ですから禁忌の食材以外にも、給食については日本のようなきめ細かい対応を期待することは出来ず、また期待することでストレスに繋がりますから、異文化を許容する広い視野が求められます。
(2) 入院期間について
多くの諸外国では、「自宅で出来ることは自宅で」の基本方針により、外科手術前後の入院期間はわが国に比べて短いのが現実です。
臓器移植の場合も事前検査は外来で行い、移植手術の前日または2日前になって入院するのが一般的な流れです。
そして早ければ術後4日目、遅くとも術後一週間で退院するのが通常の流れでしょう。
(3) 海外での透析について
透析療法開始前に腎移植を受ける患者さんは、術前の血液透析は不要ですが、すでに透析を開始している患者さんは、日本と同じように透析を受ける必要があります。
ところが透析の実態も、わが国とは大きく異なりますから、理解が必要です。
日本の透析クリニックでは、「あなたのドライウェイト(DW)は〇〇.〇kgだから、今日は〇〇.〇Kg引きます」と、厳格に体重管理を行っていますね。
しかし諸外国では、そこまで親切・丁寧ではなく、何キロ引くかは患者の希望により決められるケースがほとんどですから、前述した病院食同様、多くの医療行為は患者の自己決定の下で行われるという点にも留意する必要があるでしょう。
透析クリニックによる体重管理も、日本人の目から見れば極めて???。
透析開始前に、体重計に乗る際の衣類についても患者次第です。ある人は、ジャケットを着たままだったり、またある人は、パンツ一枚だったり。日本ではありえない「自己責任で管理してね」の世界です。
さらに透析スケジュールについても、我が国とは大きな違いがあります。
日本ではほぼ例外なく、月・水・金または火・木・土の決められた曜日の決められた時間に患者が透析クリニックを訪れて透析を受けています。もしも決められた日に患者が無断で来院しないということがあれば、それは大問題。
クリニック側は大慌てで患者に連絡をしますし、もしも患者と連絡が取れなければ、あらかじめ登録されている近親者に連絡をして、患者の様子を訪ねるでしょう。
我が国では透析の医療費がほぼ無料ということもあり、スケジュールどおりに患者が来院しないということは、まず考えられません。
一方で海外はというと、誰でもが週に3日の透析を受けているわけではなく、ある患者は週に2日、また、ある患者は不定期で透析を受けているのが現実。理由は、透析の医療費が、ほぼ自己負担だからです。
ある患者は全額自己負担、また、ある患者は保険適用は受けられるものの、一部が自己負担であったり、加入している保険によっては、その患者の透析に関する生涯の支払い保険金に上限が設定されているため、その上限金額内でなるべく長期にわたって支給を受けようとして、定期的にクリニックに通わず、本当に体調が悪化して初めて透析を受けるケースも多いからです。
したがって海外の透析患者は、透析を受けようとする前日あたりに、次の透析希望日を電話等で伝え、その時点で空いているスロットを(例えば午前中や午後など)確認してからクリニックに来ます。
そして来院すると、まず最初にその日の透析費用を支払ったうえで透析針を刺してもらうというスタイル。
さらに言えば、我が国では毎回、新しいダイアライザーを使用しますが、海外の患者は少しでも一回当たりの透析のコストを下げるため、ダイアライザーを5~6回ほど使いまわすことも当たり前。ですからダイアライザーには、患者の名前と、使用した日にちがマジックペンで書かれ、専用庫で保管されている様子が見て取れます。透析の都度、常に新しいダイアライザーを使う患者は多くはありません。
さらに透析関連のコストについて述べれば、海外の「透析代」には正に透析しか含まれません。日本では毎回のように当たり前に投与されるエポも別会計なら、血液検査も胸部のレントゲンも、リンの値を抑える薬も全て別会計。我が国のように毎回採血することもなければ、麻酔パッチも必要とする患者だけが購入するスタイル。
以上のような背景もあり、高額な透析代を支払い続けても腎不全は治らないのだから、それならば手術の際に一時的に大きな費用は掛かるものの、透析よりも移植へと諸外国では自然に舵が切られたことも理解が及びます。
誤解を恐れずに言えば、日本の透析患者さんは余りにも恵まれた環境下で透析療法を受けていると言っても過言ではないでしょう。しかしその手厚い医療体制が整っているからこそ、我が国の透析患者さんの余命は世界一を誇っているのです。
我が国では、透析治療を必要とする末期腎不全は「難病」に指定されていて、ほぼ自己負担ゼロで透析が受けられていますが、昭和50年代までは我が国でも保険適用ではなかったため、経済的に豊かな患者以外は、末期腎不全イコール「死」という医療環境でした。
そして、経済成長に伴って社会が豊かに変化したことにより、主として糖尿病や高血圧を原疾患とする腎不全患者が増加し続けた結果、透析患者の数は約34万人にも膨れ上がり、その増加のスピードにブレーキがかかりません。
そして現在の透析関連の医療費の総額は、およそ2兆円にも上り、総医療費の約5%を占めるまでに増加しているのです。
単一の疾患の治療に支払われる医療費が、国の医療費の総額のおよそ5%をも占める疾患は、透析治療を要する末期腎不全だけではないでしょうか。
その2兆円産業である透析関連業界の内側については透析業界の実情をどうぞご覧ください。
(4) 医療費について
例えば、ある疾患で入院して外科手術を受けたとします。
日本人の感覚だと、「医療費」には、入院費用・検査費用・手術費用・薬剤費用・給食費用など、入院から退院までに要する全ての費用が含まれると解釈しがちですが、ここは十分に確認が必要です。
医療機関が提供する「プラン」により、薬剤費用は別途請求、あるいは事前検査費用はパッケージに含まれない、また、給食費用は別途請求などという取り決めになっていることが往々にしてあるのが現実です。
この医療費については、医療機関が提案するプランには、「何が含まれていて何が含まれていないか」を慎重に確認しなくてはなりません。「こんなはずではなかった」と入院後に理解不足を嘆くことのないよう、医療通訳を通じて十分に理解を深めることが大切です。
私どもは経験豊富な医療通訳者として、日本と海外の間に立ちふさがる医療文化の違いが招く、誤解や思い違いが生じることのないよう、常に日本人患者サイドに立って通訳を行っていますから、ぜひご相談ください。
これらの情報が、渡航治療をを希望する患者さんの一助になれば幸です。
【医療通訳とは】
医療通訳とは、医療の専門用語に精通し、医師や看護師とのコミュニケーションを円滑に図って、正確な情報を患者さまに提供し、また、患者さまの状態を医療従事者に正確に伝える、医療現場で働く通訳のプロフェッショナルのことを指します。難解な医療の専門用語を完全に理解し、患者さまと医療従事者との意思疎通を正確に図るには、何よりも豊富な経験を積むことが重要です。
海外で医療行為をお受けになる際は、私ども海腎協のプロフェッショナルな医療通訳サービスを是非お役立てください。
翻訳ソフトは目覚ましい発展を遂げてはいますが、日常会話程度の翻訳ならばともかく、医療現場で正確かつタイムリーな意思疎通をするには、残念ながら現状では十分な機能を有しているとはいえません。
外国に渡航して疾病の治療をするにあたり、医療通訳や渡航先での滞在支援についてのご相談がおありでしたら、40年近いサポート実績を誇る当会にぜひご相談ください。
ご相談は無料でお伺いいたします。
03-4283-7042(電話) または
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