当会に関する新聞報道記事
このページでは、1988年(昭和63年)に当会の活動について報道された新聞記事をご紹介したいと思います。
私どもでは、1988年に第一号の患者様の生体腎移植を、フィリピンのマニラにてサポートさせていただきました。
ご記憶の方もおいでとは存じますが、民間団体が仲介する海外での腎臓移植手術が表面化したのはこれが初めてのことであり、当時は極めてセンセーショナルに扱われたものでした。
ここに掲載する朝日新聞のみならず、多くの新聞・テレビをはじめ、週刊誌でもで連日のように報道され、なかには事の本質を見ない一方的な報道も目立ったものです。
真に透析患者の窮状を伝え、日本の厚生行政のあり方を問う、いわば中立的報道をしてくれたのは、朝日新聞・NHK、それにTBSの番組「報道特集」だけでした。
ここでは、記録が残っている朝日新聞の3本の記事を転載させていただき、いまから37年前の当会の黎明期における社会の反応を情報提供いたします。
為替相場やドナーの由来、また各国が臓器移植法を制定するなど、時代背景は現在と大きく異なりますが、私どもの活動の歴史をご理解いただく一助になればと考え、あえて批判的記事まで含めて掲載いたしました。
なお、この朝日新聞の記事は、フィリピンにおける腎移植手術について書かれていますが、2008年4月以降、フィリピン政府が外国人への臓器提供を禁じる行政命令を発したため、現在は同国でのサポートは行っておりません。
現在では、中米エリアで米国人移植チームが執刀する腎臓移植手術の情報を、無料でご提供しております。
それでは、3本の記事をご覧ください。
1.1988.09.02 朝日新聞東京朝刊「今後も日本人に手術」
謝礼支払いを確認 今後も日本人に手術
【マニラ1日=松野特派員】大阪市の腎臓(じんぞう)病患者Aさん(51)が東京都新宿区の「海外腎移植事情研究協会」(栗原理・理事長)の仲介で、フィリピンの囚人から生体腎移植を受けた問題で、Aさんに移植手術をした比国腎センター所長フィロチオ・アラノ医師と同センター移植外科部長エンリケ・オナ医師が朝日新聞記者と同センターで会見し、腎臓を提供した囚人に2万5000ペソ(約16万円)の謝礼を払った事実を認めるとともに、海腎協の仲介とは別に三重県の医師ら5、6人の日本人患者が直接、移植手術を求めてきていることを明らかにした。両医師はまた、比国でもなかなか組織が適合する腎臓がないため、日本人患者に対しても比国人同様、最後の選択として囚人から腎提供を受けることが今後もあると話した。
両医師との一問一答は次の通り。
−−モンテンルパ刑務所の囚人から腎臓の提供を受け、謝礼を払ったのは事実か。
アラノ 事実だ。囚人へは合計2万5000ペソを支払った。彼は家族に1万5000ペソだけ送り、残りはカラーテレビや服、時計など自分の物を買うのに使った。しかし、提供は彼が自主的に申し出たことで、こちらから要求はしていない。
オナ 比国では血がつながっていなくても、双方が了解すれば移植ができる。提供に感謝する意味で謝礼が支払われる。日本とはそもそも異なった状況にある。今後も、最後の手段としてモンテンルパから提供を受けることはある。
−−今まで2人の日本人患者が比国で非血縁者から移植手術を受けたが、他にはいないか。
アラノ 三重県の医師をはじめ5、6人が直接来た。助けてあげたいが、こちらもそう簡単に組織が合う腎臓を見つけられない。混乱するので、海腎協に交通整理を頼んでいる。日本人がこれだけ来るのは、日本で腎提供や移植が進んでいないからだ。欧米のように、アジアの臓器移植のネットワークづくりを促進すれば、自分の国で提供者がない時は相互協力できる。
−−850万円という医療費は高いのではないか。また、海腎協によると、契約後、5万ドル(約670万円)や研究費を受け取ったといわれるが。
オナ 料金は米国と同じように、患者の生活状況などいろんな事情を考慮して決める。日本人の場合は850万円が協定価格だ。貧しい人、金持ちの人によって額は違う。850万には、医師の報酬、薬代、手術後の手当てなど、全部入っている。Aさんの場合は1回手術をやり直した。手術前に受け取った5万ドルは、Aさんの医療費850万円の内金として支払うと協会側が申し出たものだ。それ以上はAさんについてもらっていない。研究費も850万円に含まれている。
−−日本人患者がたくさん来ることについて、どう思うか。
アラノ 比国では1回透析すると3000ペソ(約2万円)かかる。比国では、月収2000ペソ以下の階層が70%も占めているうえ、透析装置も少ない。だから移植の方が進んできた。日本は金持ちで、良い装置もあるし、透析医も多い。「脳死」のとらえ方も違い、移植に比重が置かれていないのではないか。
−−仲介団体については?
アラノ 手術前後は、付きっ切りで通訳のできる調整役がいないとだめだ。(栗原氏らが)もうかったかどうかは知らない。
朝日新聞社
2.1988.09.04 朝日新聞東京朝刊「腎移植ツアー、批判だけでは・・・」
背景に国内態勢不備 患者・囚人ら利害一致
【マニラ3日=松野特派員】大阪市の腎臓(じんぞう)病患者Aさん(51)が東京都新宿区の「海外腎移植事情研究協会」(栗原理・理事長)の仲介でフィリピンの囚人から生体腎移植を受けた問題は、「非倫理的だ」というだけでは片づけられない、複雑な背景を持っている。比国ではすべて違法でないうえ、比国の医師や団体、患者、囚人の4者のなかに「だれも被害者がいない」ということも、問題をより複雑にしている。そして、問題の根本は「移植を願う患者が多いのに、受け入れ態勢が不備である」日本国内の状況にあるともいえそうだ。
今回のAさんの腎移植で、比国の医師と海腎協間で交わされた手術の協定価格は5万ドル(約670万円)だった。それに海腎協側が研究費などを上乗せし、850万円が「医療費」名目で医師に支払われた。研究開発や学会出席の費用を補助するシステムで、「日本での医師と製薬会社の関係と同じ」(海腎協)という。
同じような「利害一致」は、囚人と患者も同じ。囚人は腎提供で約16万円の謝礼を受けとって減刑の機会も得た。Aさんも透析の苦しみから逃れ、透析にかけていた年間144日を自分のものにできるようになった。
「何かおかしい。でも、皆幸せになっている。日本の常識を押しつけるのがおかしいのだろうか」。青木盛久・日本大使館公使は頭を抱え込む。
厚生省はこの問題が起きてすぐ、非血縁者間の移植を日本人患者にしないよう、比国に申し入れる方針を決めた。ところが申し入れは結局、「内政干渉になる」(大使館)として見送られた。
大使館としては「打つ手は全くない」というのだが、青木公使は「買春ツアーの時と同じく、『生き腎臓ツアー』だ、と反日感情が高まる可能性がある。また、金持ちの日本人が比国内の腎臓の値段をつり上げ、比国人が移植を受けられなくなる可能性がある」と不安を語る。
「今回の問題を、突き詰めると、結局日本の移植行政の遅れという壁に突き当たる。患者さんの気持ちや、仲介がないと比国へ来られないとなると、団体の批判ばかりはできない」というのは、大使館のある書記官。栗原理事長や手術したオナ、アラノ両医師は「日本の透析市場は5000億円と言われ、透析医が移植行政にストップをかけている」としている。
医師でもあり、急性腎不全で透析の経験もある書記官は「透析の苦しみは、一度やった人でないとわからない。患者の立場からすると、仲介団体だけを責めるのは、ふに落ちない。日本の移植がなぜ遅れているのか、だれが遅らしているのかも考えるべきだ」と指摘した。
朝日新聞社
3.1989.05.08 朝日新聞東京朝刊「人道とカネに揺れるマニラ」
マニラで、日本人に対する腎(じん)移植がおおっぴらに再開された。昨夏、受刑者からの腎提供をあっせん、現地でも社会問題になり、出国勧告を受けた日本人仲介業者が、このほどフィリピン出入国管理局から「患者への人道上の配慮」を理由に、正式の入国を認められたためだ。今年に入りすでに2人が移植手術を受け、さらに7人が待機中といわれる。一方、「新規参入」を目指す他の日本人業者たちとの間で、現地の専門医の激しい奪い合いまで始まっており、現地で批判も出ている。
(マニラ=清田治史特派員、写真も)
再入国を許されたのは東京都新宿区の「海外腎移植事情研究協会」の栗原理・理事長(56)。昨年6月、大阪市内のクリーニング業者(52)が現地の囚人から金銭を代償に生体腎を提供され、移植手術を受けた際、同理事長は「無許可営業」を理由に同8月25日付で国外退去勧告を受けた。
この処分と同時に、比出入国管理局は、栗原氏を出入国者の「要監視リスト」に登録、旅行者として入国できない措置をとった。しかし、その後帰国した同氏は、在京比大使館を通じ、「特別労働許可」を申請、今年1月に認められた。
この方針変更について、比出入国管理局のサンチャゴ局長は「その後、保健省や国立腎臓研究所から、患者の付き添いとして栗原氏がどうしても必要だ、との要請を受けた。人道上の配慮から、特別労働許可の発効に踏み切った」と説明した。
栗原氏は87年春、フィリピンきっての腎移植専門医のアラノ・フィリピン国立腎臓研究所長、オナ・同副所長らと、日本人患者に対する腎移植の独占契約を結んでいた。昨秋、同氏の帰国後も、別の同研究協会職員らが患者たちを連れて入国したが、こうしたいきさつもあって、アラノ所長らは「英語も、医学知識も豊富な栗原理事長なしでは、患者の生命にもかかわる」と、保健省と出入国管理局に強く陳情。さしものサンチャゴ局長も折れた格好だ。
○2人手術7人待機
栗原理事長は今年1月、4カ月ぶりに再入国し、日本人患者3人の移植の交渉を進めた。この結果、1月半ばに静岡県富士宮市内の不動産業者(50)が、マニラ市内で交通事故に遭って、脳死の判定を受けた青年から腎臓の提供を受けて手術。さらに4月15日には、大阪市内の鉄工所経営者(57)が親類筋にあたるフィリピン人から生体腎の提供を受けた、という。残る1人については腎臓病だが、別の病気が発見されたため、取りあえずその病気の手術を受けて、すでに帰国した。さらに、日本には待機中の患者が7人いるという。
栗原理事長によると、フィリピンでの移植手術にかかる費用は、「基本コース」で1800万円だが、今年腎移植を受けた患者2人はともに総額2500万円を超えたという。昨年6月の大阪のクリーニング業者の場合、最終的に約2200万円かかったとされ、結果的に今回は2人とも300万円以上のアップとなった。
「基本コース」は入院費2カ月分、退院後のホテルからの通院費、往復の旅費など一応すべての費用が含まれている。しかし、今年手術を受けた患者はともに、高価な免疫抑制剤を多用せざるを得なかったため、費用がかさんだ、と説明している。
○提供の謝礼13万円
また、生・死体腎の提供者、遺族への謝礼について、同理事長は「アラノ所長らに任せ切りで、正確には分からない」としながらも、だいたい1000ドル(13万円)見当だろうとしている。比側医師に対しては、昨年の大阪の患者の場合と同様、「研究協力費」として3万−4万ドル(390万−520万円)をそれぞれ提供した。
一方、栗原理事長のほかに、今年に入って岐阜市内の仲介業者も3人の患者を伴ってマニラに入った。栗原氏が紹介した患者と同じ病院に通院させ、アラノ所長らとの接触を図った。しかし、同所長らは栗原理事長との独占契約などもあり、これに消極的だった、とされている。このため、3人の患者は1、2カ月の通院や透析費などを支払ったうえ、そのまま日本に帰国。結果的に業者に振り回された格好の患者たちは、岐阜の業者に契約金の一部の返還を求める構えとも伝えられる
このほか、東京都江戸川区の業者も、比側医師への接近を図っており、比国内でも数少ない腎提供をめぐって、日本の業者同士が激しい争奪戦を演じる結果となっている。
フィリピンの腎移植は60年代後半に試験的にスタートし、83年ごろから本格化。すでに約500例の移植手術が行われている。脳死が認められ、死体腎からの移植が容易なのと、人工透析に比べ、移植の方が患者の医療費負担が軽いことなどから、腎移植を積極的に奨励してきた結果といえる。しかし、それでも腎臓の提供者は少なく、今も150人余りのフィリピン人患者が手術を待っているのが実情だ。
○「優先」否定するが
オナ・国立腎臓研究所副所長は「日本人患者がとくに優先されることはない。フィリピン人患者も含めた待機者全員と、腎提供者との組織適合のデータをすり合わせ、最適の患者に手術を施してきただけ」という。しかし、比医学界の中でも、「フィリピン人に比べはるかに高額の手術費に加え、研究協力費まで提供してくれる日本人患者が、結果的に優先されることはないのか」と懸念する声もある。
サンチャゴ出入国管理局長も「日本人業者がお金でフィリピンの医道徳を崩すような状態となれば、特別入国許可も再考せざるを得ない」と警告している。
朝日新聞社
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